不幸の方程式・①

初対面

商業施設の清掃、初日 現場責任者に勤務先を案内される。

"薄汚れた60代の「おっさん」" 

それが F の第一印象だった。

長椅子に右足、胡坐座りに乗せ、こちらを一瞥。

丸太のようにガッシリした背中、ユニフォームから肉が今にもはみ出したそうに盛り上がっている。

あれ?   私の担当は女性のはず、、。

「Fさん、今日から勤務される乾さん、教えてあげて下さいね」

「ああ」   面倒くさそうに それだけ。

その声で "女の人やったんや" 、同時に "やりにくいやろな" と直感。

一通りの説明が済んだところで責任者は別の現場へ。

「今日は見とくだけでええから。  どうせ何も出来へんねんから」

「ほんまにウチにばっかり こんな鬱陶しい事ばっかり押し付けよんねん、ええ迷惑や」

を皮切りにボヤキ続く、続く。     何か手伝いたくても

「余計な事せんでええ、見ときゆうたやろ」

もう一人の掃除仲間・施設利用者・施設スタッフ・雇用されている会社・社員・辞めていった者等のグチ、不満、見下し、噛みもせず見事な爆射撃。

ここは呪われた現場か。

合間に、自分が雑用全部している。   他者は気がつかず、何もしない、会社へ備品・消耗品の在庫の報告、全部自分が被っている。   会社、どんだけラクしているか、当たり前やと思ってる。

自分への限りなき称賛。

こちらが何か言おうものなら、全否定。

仕方ない、共感が必要だろうな。   オウム返し、相づちで返す。

いつまで続くのか、と思いきや終了時まで8時間延々と続いた。

何もしていないのに、高い山 頂上まで登ったような疲れに全身包まれ、ぐったりした。

カウンセラーと言えど、ぶっ続けで8時間は、魂が消耗するのだと身に沁みる。

2日目、やはり何もさせてもらえず、ついて回るのみ。

初日よりもグチ絶好調。    薄汚い暴力的な言葉に体力 奪われていく。

F・家族構成

50才・独身・自称オタク・猫好き・趣味:ゲーム

父⇨死亡  

母⇨無職、足悪く歩行困難、近所のスーパー買い物が日々の生活範囲

兄⇨無職・透析患者・糖尿病・生活保護

いわゆる "底辺の生活者" 下級国民を本人も重々自覚している。

母を養っている事もあってか、金銭に異常に細かい。 「交際費」という領域は彼女にはない。

自分以外の誰かが何か物を紛失しようものなら、

「アンタ!!  何やってんねん!! 会社の物やろ、アンタがお金出して買って来たん違うやろ!! 会社の経費、何無駄遣いしてんねん!!  ちゃんと探したんか   ボーッとしているから こうなんねん!!  いつも、気ぃつけ ゆうてるやろ」

20歳以上年上の人に容赦ない。  怒り、少なくとも10分は収まらない。

その逆鱗に触れ、過呼吸になった新人が居たという。

もちろん涙を流した人も。

F・名言の数々

① こんなとこに来よるヤツら、みんな貧乏たればっかりや、せやから程度の低いアホばっかり集まりよんねん

見てみぃ、マナーなんかありよらへん

② アホがこおとーる(飼っている) ど犬まで憎たらしなる  ババ(糞)ばっかりさせよって、アイツら、何とも思とーらへん

③ ど猫に餌やりに来るんやったら、最後まで責任持て、ちゅうねん   その辺ばらまきよって、皿位持って来い

せやからど猫も その辺にババしまくりよんねん

④ ここに来とるヤツらなんか、品なんか有りよらへん  便所 汚しよってほったらかしや  そんな程度や

⑤ 客が客なら、スタッフも どいつもこいつもアホばっかりや  何も気ぃ利きよらへん

⑥ クソガキ連れてくんな、鬱陶しい

⑦ 客なんかと口きかんでええ!   つけあがりよるだけや

⑧ ガキ走り回っとんのに親 注意もしよらへん  喋っとおるわ

躾もでけん親の子や、しょせん知れてるわ

⑨ アイツ、こんな事ぬかしよった!!

⑩ さぁ、ちち(乳)でも揉ませとんのんちゃうんか  云々、、

あぁ、Fの世界観、書いているだけでもしんどくなる。

人を見下す事で、自身のプライドを保っている。

見下げられる側の仕事。   感謝はされても憧れられる職業ではない。

逆恨み、惨めさ、嫉妬等、コンプレックスの部分を人を攻撃する事で、かろうじて均衡を保っている。    もちろん、本人に自覚はないが。

悲しいかな、その巨体もFから可愛げを奪っている。  

体形、本人も気にはしているが、これ以上痩せたくない、と。

聞けば3ケタになるからと激しいダイエットをしたらしく、もう二度とあんなしんどい想いはしたくない、キッパリ言い切っている。

彼女から人を褒めるのを、この4か月、まだ一度も聞いた事がない。

そういう世界で彼女は生きている。

逆鱗に触れる

5月、半ばか終わり頃だろうか。

タオルを失くした。

「Fさん、すみません。 私タオル失くしてしまいました。   歩いた所 全部探したんですけど、見つからなくて。」

F、顔色変わる 「何やってんのん!!  よう探したんか」   「はい」  F、私を睨みつけ持ち場に戻る。

30分程し、私の持ち場に来るや否や、 「アンタが失くしたん、どっちの方?  自分の分? 全体の分?」   「自分の分です」  「どんな持ち方してたん?」  説明する。

「そんなやり方やったら、外回りの時 風で飛んでまうやろ   外も見に行ったんか」

「会社の大事な金やろ   簡単に考えてるから こんな事なんねん   金 勿体ないと思わんのか   経費使わせて何も思わへんのか  責任感じへんのか」

何年も誰かの手に渡って使用されてきた汚れたタオル(雑巾)である。  そこまで言われなアカン?

しかし、激高しているFには誰かが火に油を注いだのか、絶好調の怒り増し増し、口をはさむ瞬間を与えない。

10分位続いた後、私を睨みつけ背中を向け持ち場に戻った。

三日後位か、休み明けの私を見るや、

「アンタ、昨日 大惨事やってんから!!  昨日、ペットボトルの袋 穴あいて そこら中水浸しやってんから!!  いつもゆうてるやろ  中の飲みもん全部捨ててからゴミ袋に入れやて  何聞いてんねん」

「袋も2重にしてなかったし   どれだけ迷惑かけたら気ぃすむねん   おかげでえらい時間取られて  仕事 遅れてもたわ   どうしてくれんねん!!」

散弾銃のような言葉の乱射、容赦なく皮膚を貫く。   ?  記憶がない。

「私ですか?」

「せや  大惨事もええとこや    後の人が片づけさせられるねん   そんな事も分からへんのか   もっと思いやりちゅうもん持って仕事 出来へんのか」

いつまで続く?

咄嗟に大声を出していた。

「迷惑かけてすみませんでした  それ以上言われたら私 何するか分かりません   今 凄く怒っているんで」

F、かなりビックリしたんだろう。   その場で固まったまま。

日頃 一切逆らわず、 「はい」  「ありがとうございます」  「すみません」

この三語が私の90%を占めている。

まさか反撃にあうとは思わなかったのだろう。

翌日、F・ご機嫌を窺うように2〜3言喋りかけてきた。

とりあえず、相槌返す。  それで私が元に戻ったと思ったのか、通常の薄汚い言葉の連打が始まる。

うっすら吐き気を感じる。

ウンザリを通り越し一切喋らなくなった。   2ヶ月になろうとしている。

そして今

私を不快にする事をFはした。

私に断りもなく、私が考え実行に移した案を勝手に却下、別の場所に置きっぱなしにされた。

それでも私が何もなかったかのようにFを無視。

F、かなりイライラ、しかしFからも口を開く事はなく、物に当たったりしている。

今後も、仕事上の工夫した形はFに無かったものに無断でされるだろう。

うーん、許してはイカンなぁ。

という事で、戦う事にした。  (続く)

不幸の方程式・①” に対して2件のコメントがあります。

  1. 石井博子 より:

    描写が痛快です!
    クスッとしたかと思うと・・・
    次に、「えぇ~そんなぁ~そんなん通用するの?」と
    目が点になってみたり・・・
    そういうものの捉え方の人、いるのですね
    世の中を恨んで
    不のオーラを身にまとっておられるのですね
    でも、誰も何も言わない・・・

    そこに・・・
    「迷惑かけてすみませんでした。それ以上言われたら私 何するか分かりません。今 凄く怒っているんで」
    カッコイイ!
    私も言ってみたい
    スカッ
    まるでドラマみたいです

    続きが楽しみです。

    1. inui より:

      先生、コメントありがとうございます。    嬉しいです。
      で、実際 本日29日・火曜日Fに話をしました。   言い訳三昧、かみ合わず一切 非を認めず、しかし かなり悔しかったようで、多分 今夜 悔しくて眠れないんじゃないでしょうか。

      このあたりも続きで書いていきますので、読んでやって下さいね。

      こうして感想頂けるの、本当に 本当に嬉しいです。

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