今だから話してみよう・③

講師・K

ピンポーン

あっ、来はーつた!!      どんな人やろう? ワクワク

「はーい」  ドアを開ける。

「乾さん?   M先生の紹介出来ました Kです」

大きなハッキリした目が私をとらえて離さない。

笑顔なく、一瞬怒られているような感覚を味わった。

中に入ってもらい、面接のような会話が始まり出した。

「今回の事、聞かせてもらえる?    M先生から、頼む、あの子ら助けたって欲しいと頭を下げられたから、私 講師なんてする気ないし断ったけど、それでもM先生が頭を下げはーるから引き受けた」

「E君、途中で降りたんやって?   私は引き受けた以上生徒さん、一人であろうと約束は守る   責任は最後まで持つ」

「けど、このプログラム、何?  今時こんなプログラム古すぎるよ、E君、前の時と全く同じ内容でしてるんやね   M先生、それでいってあげて欲しいと言われたから これでいくけど、上級は私がプログラム組むからね」

M先生から、「乾さん、理論の講師見つかったで  なかなか激しい人やぞ」

とは聞いていたが、初日から意志の強さ 全開だった。

そしてトドメに

「私はここは相性悪い   占いで 凶 と出たから本当はイヤだけど、悪い場所に来たら自分がどうなるのか、それも勉強だと思って引き受けた」

置き土産のような言葉を残し、初日 顔合わせの後 帰って行かれた。

「相性悪い場所」 の名セリフは、その後 口癖のように言い続けられた。

悪化する経済状態

週1回、昼コース・夜コース

上級コースも始まり、一年位たった頃だろうか、少ない生徒、かさばる経費。

支払いがきつく、しかし、何としても講師料は支払わないといけない。

その想いとは裏腹にどんどん経済状態は悪化していく。

「どんな事でも何でも、困った事があったら相談に乗る   何かあるんじゃないの?   大丈夫?」  と、K講師、来校の度に聞いてくれる。

一人、二人、三人位の生徒ではやっていけていないのは黙っていても分かる事。

情けなさと惨めさを抱きながらK先生に話してみた。

お金がない事、必ず埋め合わせをするので、それまでの間、歩合にしてもらうのは可能か、売り上げの○○%でして頂けたら どれだけ助かるか、こちらの力不足で先生にこんな事お願いするのは どれだけ勝手で心苦しいか、と想いを述べた。

K、表情がパッと変わり、それはすぐに "怒り" へと流れた。

「出来ません、そんな事出来るわけがないやろう   こんな安い講師料でアンタ何言ってるの!!  ここには来たくなかったのにM先生が、どうしても と頭を下げはーったから引き受けただけ」

「甘え過ぎやろ   そんな甘い事だから集客も出来ないし、そもそも ここを始めたのが間違ってた」

「一体アンタに何が出来るのん?   心理学って言ってるけど、心理学の事 本当に分かっているの?   実力も無いくせに始めるから こんな事になる」

私は辞める 

「講師料 払えないなら私は辞める   しかし今いる生徒さんには私が最後まで責任を持つ   これからは私の自宅で教えるから」

授業中に生徒さんに話されたのだろう。

生徒さんにお別れの挨拶も、お詫びも出来ないまま、その日以降顔を合わせる事はなかった。

「お金じゃないのよ  私の勉強だから」   「ここは凶の場所だから」

私がKから一番多く聞いたセリフであったような気がする。

その、「お金じゃないのよ」の、お金を支払うために夜はスナックでバイトをし、昼間は内職。

また自分が講師をする時に備えて、心理学の勉強。

プログラムを作り自分なりに内容を練り上げていった。

ジンマシンが消えない日々

睡眠不足ゆえジンマシンが消えない日々が続いた。

週1回出勤のE氏が来校しても気づかず、事務所で爆睡している私を起こさないようE氏は静かな形で私を見守り支え続けてくれた。

現実は更に私に挑戦状を叩きつけてくる。

弟の事業が潰れ、危ない人達に狙われ逃げ回っていると知らせが届いた。

その知らせが私に影響を及ぼすにさほどの期間はかからなかった。

どこで調べたのか、いきなり電話がかかってくるや

「姉さん、弟の事で話があるんやけど、今 下にいるんやけど、そこ上がって行きましょか」

授業中である。

「ごめん、ちょっと この問題やっててくれる? すぐ戻るから」

下に降りると正面に車が止まっており、助手席には生前父が可愛がっていたY氏が大きな体を申し訳なさそうに丸めて座っている。

「ごめんな、弟の事で俺も噛んでいる(関わっている)から眞澄ちゃん(乾)に話 持って来るしかないねん   ちょっとでも都合つけてくれへんかな」

隣の男に脅されている。     明らかに "そのスジ" の男と分かる。

「姉さん、すんませんなぁ  Yちゃん助けたってくれへんかなぁ  困り切ってるねんわぁ」

金などあろうはずがない。

後日 その男の車に乗りサラ金回りをし、借りれるだけ借りてY氏に貸す。

何の意味ももたらさない価値のない分かり切った借用書を渡され、「絶対返すから」

「絶対」ほど、あやふやで信用出来ない言葉はない。

まして こんな状況である。  Y氏 他からも借金取りに追われている。

命も おそらく狙われているだろう。   が、N氏(Y氏を脅している男)と一緒にいる間は誰もまだ手を出す事はない。

N、「関係ない姉さんに迷惑かけて悪かったなぁ   ほんま、弟 悪い奴やなぁ  親兄弟泣かせて」

優しい言葉をかけてくれたのは金を渡したからである。

渡さなければ何をされるか分からない。

私に直接手を出す事はしない。

まずは生徒さんを怖がらせる事から始めるだろう。  私が一番辛い事が何か、を分かり切っている。

何があっても生徒さんを守らなければならない。

"執念" だけで生徒さんに近づけるような事はさせなかった。

その最短・最善の方法が "金を作る事" それしかなかった。

「警察」に、と思う人がいるかもしれない。

それは、その業界を知らない領域で生活をされている方々の健全な発想である。

そんな甘い世界ではない。

金の為なら何でもする。

そう思わせる事が

ゆえに、逃げず、逆らわず、最低限(私にしては最低限どころか最大限、ぎりぎりの閾値を超えてしまっている)であっても、向こう(脅してくる輩)には "最大限の事" をしている、そう思わせる事が、私にこれ以上手を出さない方法である。

脳みそから血が出そうな位、何をどうしたら良いのか、これ以上何をすればいいのか、考え抜かなければならなかった。

講師Kの撤退、弟の事業失敗、そのスジの者からの脅し、睡眠不足。

重なる時は重なる。

弟が逮捕された。

事情聴取

身内である私も事情聴取に呼ばれ、体験講座と重なった日であり、M先生に事情を話して、教室を任せ警察に向かった。

私が心理カウンセラーをしているとの事で、向こう(警察)は "落とし" の名人を用意していたと、後から聞かされた。

M先生、ずっと変わらず接して下さり、今も変わらぬ師弟関係を続けて下さっている。   交通費しか出せなかった、それでも「かまへん、かまへん」と笑顔で講座を続けてもらえた。

見習いたい、と思うが見習うには程遠い器の大きな持ち主である。

〜追伸〜

「神は乗り越えられない試練は与えない」

そう言って頑張る人もいるが、私は この"言い回し"が嫌いである。  今のところは。

今だから話してみよう・③” に対して2件のコメントがあります。

  1. 森本博子 より:

    先生、おはようございます。
    読ませていただいて驚きました。そんな修羅場があったとは…
    「脳みそから血が出るぐらい…」
    そうだったのですね…
    そんな事件が…
    そんな中で、教室をスタートされ
    生徒さんを守られてこられたことや、どんな思いでやってこられたのか…それを考えると
    身震いするぐらいの思いです。
    そうして、守られた人とのつながりが今に繋がっておられる事がよくよくわかり始めました。
    生半可なもんじゃない!
    腹をくくった先生の生きざまが
    垣間見れるblogに恐れ入ってます。

    ところで…
    今朝、スマホにFacebookのAI(多分ですが…)
    からの通知で
    先生のお誕生日が今日なので
    お祝いメッセージを今日中に伝えよう!と通知が来ました。
    すいません
    先生に何でもAIかい、ちゃんと覚えとけ!と、叱られそうですが…
    そんなこんなで、
    お誕生日おめでとうございます❣️
    いつもいつもありがとうございます。先生が生まれて来て下さって感謝❣️先生がいつも気にかけて下さる優しさに感謝❣️先生の豪快な人生をこうしてblogで公開して下さることに感謝❣️

    1. inui より:

      森本先生、コメントありがとうございます。
      勿体ない程の言葉を頂き、有難く、またこんな私の話が読んで頂いた方に、何か響けばとの思いで書き綴っております。

      近頃、ワタクシ 自己紹介なるシートに "特技" という箇所がありまして、迷わず 「生きている事」 と書いておりました。
      生きる、という事は とにかく何かある、何もない人なんて まずいないと思います。

      そして、色々な事に出会い 喜怒哀楽を感じる中で、日々を生きている、生きる作業を続けている、それって "特技" と言ってもいいんじゃないかと。

      まだ、ワタクシ、特技=生きている事、この言葉にまだ特許をとっていません。

      どうぞ、ご自由にバンバン お使い下さいませ。

      そして、先生の事も書かせてもらうつもりでおります。
      私を助けて下さり、先生じゃなければヨーガは続いておりませんでした。
      私の大切な恩師です。

      今更ながら、「ありがとうございます」の気持ちで一杯です。

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