時代を違えた男・N 享年37 ①
N
「オヤジ、行ってくるわ」
父の仏壇に手を合わせ、フィリピン行きを報告。
40年ほど前の話になる。
もう そんなに経ったのか。 昨日の事のよう、とは言わないが、まだ10年位前程度の感覚である。
「それでマスミ君は今何してんねん」
「心理学習いに行ってます。 心理カウンセラーになりたくて」
「おぉ、それは素晴らしい!! これからは心の時代や しっかり勉強して僕をカウンセリングしてな」
「もう、Nさん、余計な事言わんといて下さい この子、訳の分からん心理学なんてやり初めましてん そんな事言わはーったら増々調子に乗りますやん そろそろ落ち着かさな、あきませんのに」
「いや奥さん、心理学はええ勉強でっせ ええとこ目つけてますわ」
「マスミ君、しっかり勉強しいや」
ニコニコ。 世間から怖がられている凄みのある顔はどこにもなく、満面の笑みで私の心理学を後押ししてくれた。
それがNと交わした最後の言葉となった。
Nと父
「何ぃ 乾ぃ なんぼのもんやねん そんなヤツいてもたる 食うてもたる」
"大東(市)で乾さん怒らせたら不動産やって行かれへんで" そんなウワサを耳にし、Nが発した言葉である。
後々 本人からも直接聞かされた。
「眞澄ちゃん、オレな、オヤジいてもたると思て、大東(市)に来てん」
「なのに何で?」
「オヤジの金 全部吸うてもたろ思て毎晩 新地に行っててん オヤジ、いけ N なんぼでもいけ 言うてほんま嬉しそうやってん 多分オヤジ分かってたん違うかな オレの考えてる事なんか それでも何も言わんとずっと飲ませてくれててん いつの間にかオヤジ好きになってもてな、オヤジについて行こ て決めてん」
父の傍にはNが居る、それが当たり前の光景になるのにそれほど時間を要しなかった、と記憶している。
ラメ入りブルーグレーのスーツ。 パンチパーマ。 がっしりした体躯。
どう見ても素人には見えない。
Nと父が歩く姿は、ある種の迫力があり、人を遠ざけていた。
しかし、オヤジと慕っていても金にはシビアなN。
「オヤジ、オレは金ないから金はオヤジが出してくれ オレは知恵を出す」
将来は判事、に
仰る通り、Nは成績優秀 "将来は判事になる" と決めていた。
しかし、判事とは真逆。
37才、異国の地フィリピンで射殺され その人生を閉じた。
どこで道を外したのか。
これも本人から聞いた。
「高校2年、数学の授業で質問をしたら、先生よう答えんと「今 関係ない質問するな」って逃げよってん。 なんや、進学校の教師ゆうても この程度か、せやのに何偉そうにしとんねん いっぺんにアホらしなって、そっから遊びまくったった」
と言っても頭の良いN。 受験勉強なしに公立大学に受かっている。
その後、大手自動車会社で営業。
口の達者さと押しの強さでトップを続ける。
営業みたいなもん簡単や、しれている。 と飽きてしまい、もっと大きな物扱いたいと不動産業に入って来た。
Nと女
とにかくモテた。
遊び人・女慣れ・強面の顔に似合わないヤンチャな笑顔。 豪快さ。
"ザ・漢(おとこ)" といった感じか。
グチグチ言わず不満や悪口など、いう暇も勿体ないと、目指すは覇者。
腰の軽さは見事である。
しかし、女達よ、ここ よく聞いてもらいたい。
Nではないが、一般的に
遊び人、金払いも良く色々連れて行ってくれ、軟な男達と違う豪傑さに我を見失う女達も多いが、往々にして遊び人は金がない。
バクチで稼ぎ、サラ金に手を出し時には騙したりで金を作っている。
一旦 遊び人と付き合うと周りの男達が面白くない、話す内容も小さな事ばかりでゲンナリ、ときめかない、ワクワクしない、退屈さを感じてしまうかもしれないが、気をつけないと、いつしか金を用意させられる側になっている事もある。
故に、"選ばれた存在" と勘違いをするのは如何なものか。
所詮 遊び人。
遊び飽きたら、もしくは金が用意出来ないとすぐに捨てられる。
二股、三股、私の知っている男は同時に7人と付き合っていた。
N、遊び回っていたが、家庭はしっかり守っていた。
家を空けている割には子供3人に慕われていた。
嫁もバレる迄はNを全く疑っていなかった。 (続く)
うわぁ~
とらさんみたいなん人!
豪快!
気持ちいい人!
で…
親父と慕われる…
懐の大きな男
まさに昭和の男たち!
惚れる
コメントありがとうございます。
本当に今、大きな人に中々会えないですよね。
言葉狩り、やたら多く、何か嘘っぽし言葉が多いなとも感じます。
N氏も豪快さや、仕事上 人を泣かせる事も多く反感やシット、怒りなどを買っていました。
もう少し上手に立ち回れば違う形で人生送れたんだと思います。
この後の展開も記していきますので、読んでやって下さいね。