6)Sへの応援歌・第一章

⑥  これから

今年も暑い夏が始まろうとしている。 

Sの仕事は訪問看護。 自転車漕いで日々体力仕事。

2年ほど前、「しんどいから」 とバッテリーを自転車に取り付けた。 

「ラクです〜」

文明の発達は喜びをもたらせてくれる。  発達し過ぎて情緒が追い付いていない感じ゛も今の世の中、しないでもないが。

Sの ”やる気”  ”その気” は 次なる目標に向かっている。

正看護師・取得。   准看護師であるが故出来る仕事であっても、正看護師しか手を出せないものもある。

「いつかは取りたい」と思いながらも、結婚・子育てに時間を奪われ いつしか遠い夢になっていた。

まだまだ母にベッタリの次男(小2)ではあるが、それでも少し時間が取れだし、眠っていた夢が目を覚ました。   ”正看護師、取りたい!!”

仕事を続けながらの学び、通信教育を選んだ。

試験は小論文。

文章苦手、何をどう書いたらいいという整理能力、どこかに置いてきたままのS。

置いて来たものは取りに行かないといけない。

取るって決めたんやから、合格するまで受けよな。   「はい」

先輩の友人に聞き、問題集を買い、準備開始。

でも、 そもそも論文って何?    そこから調べ出した。

そこは文明のありがたさ、ネットですぐ調べた。 24時間開いている図書館、深夜でも気兼ねなく調べられる。   昭和では考えられなかった。

ふーん、この人の文章 分かりやすいなぁ。 Sちゃん分かりやすいの、あった?

塾も算数を論文に変え、国語の先生、教えてくれた。

記念すべき、第1回目の受験。

答えは、「まだ早いよな」 論文からの返事。  「おいで」 と手を差し伸べてくれなかった。

そうか、そしたらまた1年、ゆっくり勉強しよか、傾向掴んで受かるまでうけたらいいやん。

論文、再度取り組む。

訴えたい事は何?  もっと具体的に書こうか。  ガツンと強いもの欲しいよな、読んだ後に印象に残るような等々、何度論文書いただろう。

二度目の挑戦。  

“よう頑張ったな” 論文、微笑んでくれた。   晴れて女学生。

その学びも2年目になった。

「看護計画、苦手なんです」   どんなん?  問題見せてもらう。

ふーん、これなぁ。  あんな、見方変えるねん、Aさん自身になってみるねん。  今のAさんの状態、絵にかいてみて。 そして、骨折するまで。 退院してからAさん、何したいか、何がAさんにとっての楽しみなのか想像してみて。

そしたら見えてくるやろ、Aさんに必要なもの。   じゃあ、どうしてあげたらいい?

で、何か疑問感じへんかった?   大腿骨骨折やのに、何で肺炎 起こすの?

S、答えられない。

というより、こういう考え方、した事がなかった。  だから疑問に行きつかない。

考えるって、こういう事もやと思うで。

S、今までに体験してこなかった物の見方に触れ、楽しくなったのか、前のめりになって、思いつく限りの意見を言葉に出してきた。

心地良い疲れを伴って、授業終了。

「早く家に帰って、問題解きたいです」

Sの”やる気” ”その気” に反比例して、配偶者の心が崩れだした。

今までほったらかしにして来た問題が、巨大化して自身に襲いかかって来る。

何をどうしたらよいか分からない。

そうなると、「死んだ方がラク」その想い、大きくなってくる。

まあ、人の自然な流れか。

それはSが10年前 辿って来た道。

夫の苦しみがよく分かる。

「今 主人見てたら10年前の私なんです。 しんどいやろうなぁって思います。 だけど、腹も立つんです」

せやな、ご主人のこれからはSちゃんにかかって来るんやろうなぁ。

ご主人、いい嫁持ったなぁ、幸せ者やで。

まぁ、それも ゆっくりやっていこうか。

Sの第2章、今から始まるのだから。

TACカウンセリングルーム

大阪・北浜の心理カウンセラー乾 より