時はバブル全盛期。
勢いに乗りホテルとも契約、結婚式の引き出物のケーキの仕事も請け負う事となった。
そうなると、いくら作っても追いつかない。 職人さんの助手としてパートを募集する事になった。 もちろん包装部門も。
その、助手に 「乾さんも行ってあげて、あんた若いし仕事も出来るから、ぜひ職人さん助けてあげて。 包装だけやったら勿体ないわ」と、Y氏移動を勧めてきた。
別に断る理由もない、「はい」と素直に従った。
後で知った事だが、Y氏、私を嫌っていたようで、かなりイジメをしていたらしい。
ただ、私が それに気づかないで平然と接していた事が彼女の憎しみを殊更 掻き立てていたようだ。
大きなミスもしなかった為、「クビにしてやる」と言う機会もなかった。
いつも笑ってはいるが、媚びない私にイライラしていた、と。
故に この人事異動、目の前から私を追放するのに打ってつけだったようだ。
移動して気づいた、限りなく不器用だったという事を。
プチケーキ、担当になった時 逃げ出したくなった。
クリーム、クネクネと曲がってしまい真っ直ぐに引けない。
新しく入って来た工場長、それが許せない。
そのまま私の目の前でゴミ箱にバッサリ捨ててしまった。
みな、見ないふりをしている。 悲しかった、自分の不器用さが。
この工場長も、曲者で後に流血事件を起こし姿を消した。
0.1tを超す巨体で古参に刃物で切りつけたらしい。
あぁ、怖い。
悪戦苦闘しながらも、何とかケーキ作りが様になってきた頃、Y氏、「製造部門のパートが優遇され過ぎている、社長が賃金に差をつけている。 あんなラクな仕事、私らに比べたら差つけられ過ぎや」 怒りまくっていたらしい。
当然、古株の先輩達、いい気持ちはしない。
ある日、「Yさん、下(製造部門)のパートさんの事メチャクチャ言ってはーるけど、下 そんなにラクなん?」尋ねられた。 びっくりである。
「いえいえ、しんどいですよ、私らケーキ作ってますもん、すごい緊張しますよ」
「そうやんなぁ、けど アンタの事、すごい怒ってはーるよ、上 忙しいのに全然手伝いにけーへん、って。 ダラダラしているから遅くなるねん、包装にいたから、上 どれだけしんどいか分かっているはずやのに、って。」
「えっ、私 何回か お手伝いしましたよ、それに 声かけたら、いいよ、いいよ、アンタも疲れているから 帰りやって言ってくれてはーりましたし」
「あの人、気分コロコロ変わるからな、虐められても気にしなや」
「えっ、虐めてはーったんですか?」
「気が付かへんかったん? もう、呑気な子やなぁ、これやったら大丈夫やろ」
数日後、帰ろうと2階に上がったら、Y氏、私を睨みつけ 「アンタ、ええ加減にしいや‼ 前、こっちに いたんやから包装どれだけしんどいか分かっているやろ!! 手伝いもせーへんのか!!」
「私、手伝っていましたよ、声もかけていましたし」
「なんや、あんな冷やかし程度、あんなん、手伝いになってないわ!!」
「あっ、そうですか」 相手にするのも疲れる。
吠えまくっているY氏の傍を通り過ぎ、帰り支度に。
私が帰った後も、ギャーギャー喚いていたらしい。
脅し・悪口・虐めの日々に、ほとほとウンザリしたのだろう。
包装部門の古参パートさん達、一斉に辞めてしまった。
慌てた社長、工場に駆け付け 「どう言う事や」Y氏に問い詰める。
Y氏、さんざん言い訳し、自分も さっさと辞めてしまった。
で、「乾君、どういう事や? 何があったんや」となった訳である。
ベテランさん達、辞めてしまい、新人さん4〜5名ほどでケーキの包装など出来るわけがない。
職人さん達、ケーキ作りが終わった後、包装の手伝い。
もちろん私も始業と同時に、新人さん教え、配送する店の仕分け、合間にケーキ包装しまくり、「何やのん、この会社、こんなになるまで、ようほっておいたわ」と、憤慨していた。
いつしか社長と私で仕事のやり取りをするようになり、心配で仕方ない社長、本社の自分の仕事が終われば、毎晩 工場に足を運ぶようになった。
早くて21時頃、遅い時は24時前位になっていた。
「こんなもん、巻いたらええだけやろ、箱 折ったらええだけやろ」
手伝ってくれるのは有り難いが、私以上に不器用過ぎた。
下手過ぎる、不良品で戻ってくるの目に見えている。
「社長、気持ちだけでいいです。 そんな仕上がりやったら、返品されますから」
「そんな細かい事 言うなや、乾君一人に負担かけられへんやろ」
そう、私一人に負担かかっていた。
あさ、8時過ぎに仕事にかかり、深夜24時位まで、フラフラだった。
2ヶ月位は続いたんじゃないだろうか、もっとだったかもしれない。
職人さん、パートさん達、当然仕事が終われば帰って行った。
誰もいない暗い工場の中で、一人 黙々と仕事をしていた。
唯一 嬉しかったのは有線放送、聞き放題。
Jポップ、聞きまくり歌いまくっていた。
音楽がなかったら、とても残業など出来なかっただろう。
今、こうして思い出しながら記していると、当時の自分が愛おしくなる、よう、やったなぁ、、と。
そして、そして、あぁ、、、。
社長が手伝ってくれた引き出物のケーキ、全て返品で戻ってきた。
あぁ、言わんこっちゃない。
「ほら〜、社長 戻って来たじゃないですか、もういいですからー」
「これ位で何で返品なんや、やかましいのぉ」
「あのね、社長、戻って来たの、またさばいてやり直しです、この分 手間かかるんです」
「そんな事 言うなや、乾君の負担 少しでも軽くしようと思ってるんやないか」
いつしか、お酒の話になっていた。
何処か、いい店ないんか、連れて行けや
何言ってはーるんですか、乾君、ありがとうな、お礼に飲みに行こうか、でしょう、連れて行けって、社長が連れて行ってくれな、ダメでしょう
連れて行くのは、お前やないか、金 出すのは俺や
あ、そんなら、すぐ行きましょ、もう片付けますから
おいおい、今日は 無理やろ
そんなこんなで、いつしか社長とは 「飲み友達」に なっていたった。