2.黒と白の狭間で・空海(くみ)

師走の河川敷、寒い朝だった。

お前は石段に腰かけ前を見ていた。

肩に、髪に雪が積もっている。   この女、どれ位座っていたんだ。

そこは、俺の定位置だ。

ある種の底冷えは雪降る事を知らせる。全てが静寂に包まれる。

顔を上げた。 やはり雪が降っていた。

いつもの席に座りたくなった。

時々 無性に座りたくなるその席、辿り着くまでほぼ小一時間の歩き。

色々な想いや思考を戦わせるには程よい時間である。

その席に着き、とうとうと流れる大河を見て気を静める。

その時間が俺を慰める1つになっている。

寒さのため、一瞬躊躇ったが、この寒さは俺を鍛えるものである、歩くための理由をこじつけ扉を閉めた。

都会の冬は遅足でやってくる。

紅葉の名残りが師走に跨り、冬枯れた私達を見て、そう言っているように聞こえる。

褪せた赤色の葉を雪が震わせている。

(緑の百選)に選ばれた、大阪・都会の川沿い。  人工的な緑。 都会の自然に触れるには、もう人工以外にないのか。

それでも、新緑の豊かさに自然の逞しさを感じずにはおられない。

川面を渡る風が雪を狂わせ、樹々に襲いかかっている。

歩き続けていると、右手に拘置所が見えてくる。

この冷たさ、寒さの中で彼らは何を想い、その時(判決)を待ち続けているのだろう。

あれや これや、策を練る事に集中しているのだろうか。

門を通された、すぐ左手にある小さな水の中で浮かんでいた蓮の花の美しさが、世間と隔離された空間の中で、俺には眩しかった。

(春風橋)と名付けられたコンクリート橋を渡る時、どこが春風なんだ、と、突っ込みたくもなるが、荒んだ心の時は、腹立たしさと同じ位の鎮静も与えてくれる。

(春) という漢字は、温もりと優しさを育てる力を秘めているのだろうか。

相変わらず、雪は狂ったままだ。  顔に痛い。  河川敷、きっと厳しいだろう。

今の俺は それを求めている。

荒れた心、少しは冷えるだろうか。

ん?  なんだ、この女。

そこは俺の定位置だ。

ふくよかな背中。  どんな風に男を包むのだろう。

当たり前のように横に座った。

女は、一瞬ハッとこちらを見て 直ぐに又前を見た。

寒さを通り越したものを、この女は抱えているのだろう。

何かを雪で溶かそうとでもしているのか。

無言の時の共有。

指、悴む前に記せねば。 内ポケットからメモを取り出し書き始める。

雪呑みて   そちも溶けよと   師走川

狂い雪   師走の川に   何挑む

「作家さんですか?」

「いや」

「見せてもらってもいいですか?」

「ああ」  メモを見せる。

お前は食い入るように見つめ、何度か読み比べ、俺に聞かせるわけでもなく呟いた。

「今の私は2つ目かな、、。 少し前までは1つ目だった。」

だから、ここで雪を見ていたのか。 狂ってしまいたいほど挑みたい何かがあるのか。

「寒くないか?」

「寒い。 でも、こうせずにはおれなかった。 気持ちを切り替えるためには」

何か言いたいのだろう、聴きだしてもらいたいのだろう。

申し訳ないが、お前の苦しみに俺は興味ない。

「そうか」 腰上げ、帰ろうとする俺に、「あのぅ、もし良かったら、、」

「句を見せて頂いたお礼に、ピアノをお返し出来れば。  私などの演奏でよろしければ」

「ピアノ?」

「はい、ピアニストなんです、私」

「指 冷やして大丈夫なのか」

「いえ、でも そうでもしないと、切り替えれなかった。 来て頂くお客様に乱れた気持ちで演奏するなんて、そんな失礼な事、やっぱり どうしても出来ない、、。」

不器用な女だな。

しかし、この女のピアノを聴く客は、きっと温もりを感じるだろう。



空海(くみ)、それが お前との出会いだった。

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