苦楽分☆彡怒喜怒喜 ⑥

こんな息子が欲しい

そういえば21:30過ぎの この道を歩くのは初めてだわ。

変わらず竹林のそよぎは心地良い。

育美が伸びをする。  ゆっくり竹林の節を見上げていく。

見上げた笹の葉の隙間から星が輝いている。

霧がない時は星も見えるんだ。   やっぱり好きだな、この場所。

今夜も低音のウィンドゥチャイムがコロンコロン、風に誘われ奏でている。

こんばんは。   ウィンドゥチャイムに挨拶をし扉を開ける。

「いらっしゃい」  ママの落ち着いた声と微笑み。

いつもと違うのは、カウンターの奥、 通称・パパの席 と言われるイスに倉橋が居る事だ。

「倉橋さん、来られてたんですね」

「よぅ、育美   何やら ママ 育美  アフロス3人で面白い話をしているらしいな。   ちょっとオレも聞きたいと思ってな」

フフ、ママが笑う。    「育美さん、いつもの?」

「う〜ん、、 黒ビールを。 その後ターキーのちょっと濃いめの水割りを、何となく   ポッキーとスルメイカも。」

「初めてのオーダーね」   微笑みが優しい。

ママは それ以上何も言わない。

珍しいわね、どうしたの?

そんな気分なの?   等、一切 後に続く事はない。

「変わった注文やなあ」 倉橋が笑う。

「倉橋さん見たら勝手に口から出てたんです。  私もびっくりしています」

「おいおい、オレはどんなイメージや」

「私もまだ分からないです。 倉橋さん、魔界の人ですもん、私にとっては。  読み切れないんです。   でも、夜、それも暗黒の中にしか存在していないようで。」

「それは 誉め言葉か?」

「ステキな誉め言葉ね。  確かに倉橋さん、そんなイメージよね」

「で、アフロス、今夜は どんな話を聞かせてくれるんや」

「それはね、私のちょっと フフフな体験を話したくて」

「フフフな体験?   しょーむなかったらオレ帰るで」

「倉橋さん、また〜、アフロスさんに失礼な」

「大丈夫よ、育美さん いつもの事だから。   はい、黒ビール、スルメイカ アフロスの話と一緒に噛みしめて」    やはりママは小憎い。

「あのね、こんな息子が欲しい!!   そんな事思わせてくれる人に出会ったの    出会ったのかな?  うん、やっぱり出会いになるな」

「私今スポーツセンターに清掃パートに行ってるやん。  これも おいおい話していきたいんやけど、地下にアイススケート場が入っていて、それを1階から眺められるロビーがあるんやね、  そこに丸太の長椅子が置いてあって、そこに腰かけてアスリートや お客さんが滑っているの眺められるようになってねんね。  もちろんガラス越しやけど。   結構 長い時間座って眺めてるお客さん 多いねんね、  それは いいんやけど、ご飯 そこで食べたり お菓子食べたり、飲食する人一杯居て、ゴミ箱置いてあるのに ちゃんと区別して捨ててくれないから選別大変で。   それに食べこぼし、飲みこぼしが多くて 床ドロドロ。」

「外国の方、大半だから 日本語読めないのか、ゴミ箱説明書きして2個置いてあるのに全く守られていなくて。」

「ひど〜い」育美が憤慨している。

「でね、絵なら分ってもらえるかなと、ゴミ用と缶・瓶・ペットボトル用作ってもらって、蓋に貼って女性が頭を下げている絵を管理の方に仕上げてもらったのね、管理の方も、私も よっしゃ!! これで凄く分かりやすいですよね」

「それで結局ムダやった訳やな」倉橋。

「そう、何で?  何で?って。   で、アカンねんよ、アカンねんよ。  私ら清掃員は いわば、影の者。 存在を意識されない職業やん、ただの景色、背景やから、  だからアカンねんよ。  けど、このイヌイ、そんなんで納得出来へんやん。」

「読めたな、アフロス、お前がした事」

「何?   倉橋さん、何が読めたんですか?」

「そう、倉橋さんが読んでいる通り。   答えを持っているのは お客さん  乳飲み子を抱いた お母さんに直接聞いたの    "お客様、今 少し お話させてもらっても良いですか?"   少しビックリされていたけど、心よく "はい" って、だから こうこうしかじかで、と説明。けど全然効果なくて、これ、分かり難いですか?   私達の自己満足でしょうか?」

「いい相手選んだな」

「"はい、自己満足だと思いますよ  蓋が一緒、同じ形だから、ゴミ捨てる人 そこまで気にしていないと思いますよ。  私は子供が小さいから抱いて捨てるので、ゆっくり捨てますけど、それで あぁ、分かれているんだと分かりましたけど、  蓋が違っていたら多分 分かるんじゃないかな。"  そうか、そこか。お客様に頭を下げお礼を告げ。   ただ、ゴミ箱の件で館長に怒られてんね、色々案を出して管理の人に相談していたら、そこに館長が通りかかって立ち止まって話を聞いてはーってんね。」

「何か言われたんやな」

「仕事は安全・効率・見栄え、これが基本。   段ボール置くのは見栄えが悪い  効率 効率ばっかり言わんと見栄え、もっと気にしてもらわんと、掃除するのが仕事やから汚れていら その都度片づけたらいい、みたいな、そんな風な事言われてんね。   そらそうやけど、そうなったらお客さんに対してイライラしてくるねんね。  ちゃんと捨ててーや。  もう座るなよ、みたいな。」

「そんな注意受けたから、新しいゴミ箱買ってくれへんし。

それ以来、館長に目を付けられて何かあったら嫌味言われてるしね。」

それだけで終わるお前やないやろ

「悔しいやん、何とかしたい  ずっと考えていてんね。」

アフロス、現場に時も感情も戻っている。

ある日、ある時 コーラ屋さんが自販機に補充されている姿。

いつもの光景やけど、その日、私はいつもの光景にするのをやめてん。補充終わられてすぐ、 "あの、ちょっといいですか?"   "はい?"   "このゴミ箱、壊れたのとか、古くなって もう使わなくなったような物で、蓋だけ残ってるのってないですか?"   "蓋だけですか?"    "はい、蓋が欲しいんです"  彼、キョトンとしている。   "あのね、実は○○で、と説明。  彼、"そうですね、確かに あれは分かり難いですよね。  蓋が違っていたら分かりやすいですよね。  でもね、これね、セットになっているんで 蓋だけ、本体だけ残すってないんですよ、同時に廃棄するんで"   "そうなんですね、残念です。  お時間取って申し訳ありません。 ありがとうございました。"    "僕 持って来ますよ。  ゴミ箱 役に立つなら。  明日すぐってわけにはいきませんが、ちょっと待っててもらえますか?"    "えっ、そんな事出来るんですか?   ご迷惑かけるんじゃないですか?"    "大丈夫でしょう、1個くらいなら   何処に置いたらいいですか?"   笑って。   "じゃあ、あそこに"     私、ウキウキ、ワクワク。    いつか いつかと心待ちに。  1週間、まだ。  2週間、あら。  3週間、あら、、まだ、、、。    やっぱりね、個人判断で そんな事って やっぱり出来ないよね、悪い事しちゃったなと、諦めかけていてんね。  それでね、小一月くらい経った時、私の顔を見るなり、  "遅くなってすみませんでした。  綺麗な分、入荷待っていたんですけど、なかなか入って来なくて。  古いので悪いんですけど置いておきました。   かなり汚れていたんで、軽くふいたんですけど、汚い物ですみません。"    そう言ってすぐに仕事に戻られてん。」

アフロス、よほど嬉しかったのだろう。

息継ぎしているのか、と思うほど一気に喋っている。

倉橋・ママ・育美、聞き見守っている。

もう嬉しくて

「私、もう嬉しくてね、すぐに見に行ったの。   軽くどころか、綺麗に拭いてくれていて。  中に入れるビニール袋の数も入れてくれていて。   その気遣いに もう感動もの!!   その数も、1枚でも3枚でもなく、4枚。  なんか、これも メチャ嬉しくて。    こんな感動、何時位振りだろうって。    もう、こんな息子欲しい!! って。」

「爽やかなイケメンではあるけど、 元 族?って雰囲気、ちょっとだけ強面風で無口な彼から差し出された優しさ、ガーンと心に入ったん。   いつも キビキビした動きから (出来る人) とは感じていたけど、、   必要以外は口にせず、今時 こんな男の人いるんや。    北方謙三さんの (水滸伝) に出てくる 楊志 を私は感じたんやけど。」   

「それ以降、全く会話もせず、淡々とお互いに仕事しているんだなー。    何か、いいよなー、会社違っても同じ職場仲間って。   ほんと、彼のような息子 もってみたいわ。」

「ステキ、アフロスさん、私も そんな人に会ってみたい」 育美が目をハートにして喜んでいる。

「ん?   それ、オレの話か?」

「いやいや倉橋さん、そんな突っ込み 要らないから」  育美。

「でね、3人に聞きたいんやけど、こんな人 ○○に欲しい!って体験ある?   なんか疲れた時、その場面思い出すだけで免疫力1㎝程でも上げてくれるような」

「確かにアフロス、お前が興味を持ちそうな相手やな」

「アフロスさん、息子で良いんですか?   こんな人、彼氏に欲しい、ではなく?」 育美の好奇心、直球でアフロスに向かっている。

「多分ね、、。    昔の私なら そう思ったと思う。   経験が心を熟成させたのかな。   親子、息子に欲しい、今は。」

「そうね、アフロス 何となく分かるわ。」

加えて、ママが珍しく問いかけを始めた。

「私からも尋ねたい事があるの。   今、これを読んで頂いている皆さん、同じ思い出 お持ちの方がいらっしゃるかしら。   いらっしゃれば、そっとお話に来て下さいな。   苦楽分☆彡怒喜怒喜 に。   なかなか分かり難い場所ですが。」

      ⑥ 完

“苦楽分☆彡怒喜怒喜 ⑥” に対して2件のコメントがあります。

  1. 森本博子 より:

    あるある・・・あります。
    なぜか、柳沢の慎吾ちゃん
    あの決して人を傷つけない笑いは貴重です。
    深刻に何か考えていても・・・いつの間にか、まっいいかぁ~と
    悩んでることさえ忘れそうになる・・・とてつもない陽気さは貴重です。
    こんな人が、近くにいると発電機みたいでいいなぁ~と昔から思ってます。

    そして、思い出から選ぶと沢山ありますよ~
    若いころ、駅で急に雨が降り出したとき通りすがりのお婆さんが傘を下さり
    「えっ!」と驚くと「ニコッ」と笑顔だけ
    嬉しかったなぁ~
    こんなお婆さんが、側にいてくれたらいいなぁ~
    そして私もこんなお婆さんになりたいと思いました。

    1. inui より:

      森本先生

      粋なおばあさんですねー、やるなぁ、カッコいいなぁ。

      じゃ、今宵は短くこの辺で。

      アバヨ!!

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