T社長の話 ②

どんな事を聞かれたのか、誰が面接官だったのか、今では すっかり忘れてしまっている。
覚えていない程度の ありふれた面接だったのだろう、生意気な事を申すようだが。

これは余談だが、ケーキ工場を辞する1年位前から、パートながら私が面接官になっていた。

後日、採用の電話をもらう。
今、思う。
若さって それだけで値打ちがあるんだなぁ、と。
「若い」、というだけで高齢者より採用される率が高い。
その「時間という宝」 悲しいかな その時点で気づく事はあまりない。

気づかないって、勿体ない、可能性を狭めているんじゃないかなぁ。

ケーキ工場にて、初日、打ちひしがれた。
ケーキの種類の多さ、名前横文字ばかり。

先輩達の早業、あっという間に包装が完成する。

あー、ダメ 出来ない。
焦れば焦るほど、ケーキが崩れていく。
セロハン巻けない、カップに載せれない。 落とす。

「大丈夫、大丈夫、慣れよ、慣れ」 先輩達、笑って慰めてくれる。
こんなに難しかったんや。
自分の不器用さに腹が立つ。

午後、クッキー詰め、結婚式の引き出物の包装、箱折り等、こなす事が次から次へと待ってる。

バブル真っ盛りの頃、飛ぶように商品が売れていく。

「あー、疲れた、ちょっと休憩しよ」
潰れた生シュークリーム、分けてもらえる。
生クリームに目がない私。
その瞬間だけ落ち込みからの解放。

嬉しかったなぁ。

職人さん、10人強。
パートさん、20人ぐらいだったと記憶している。

ケーキ作っている人って、皆 品があるな、緊張の中でそれを感じたりもしていた。

職人さん・パートさん、言葉遣いが丁寧で雰囲気が柔らかい。
時間に追われているにも関わらず、声を荒げる事もなく、黙々と目の前の仕事をこなしていく。

甘い時間を届ける人達って、皆こうなのかしら。
ただ、一人を除いては、、、。
唯一、パートさんから恐れられている女性がいた。
役職をもらっている女性で、工場を任されており全てを仕切っていた。

もちろん、初日にそんな事分かるはずもなく、全員の名前と顔が一致した頃、皆 その女性、Yさんの顔色を窺っている事に気づいた。
Yさんの言う事に一切逆らわず、言葉を選び、Yさんの気分が悪くならないよう神経を尖らせていた。

社員だから気を使っている、という感じではない。
何故、こんなに恐れられるのだろう。
その恐れは、その後、皆を1つにまとめパート一揆を起こす事になる。
先輩達が全員辞めてしまった。

今、振り返っても すごい時間遣ったなぁ、と思う。

「なんやのん、この会社、こんなに なるまで放っておいた社長の責任じゃないですか」

事の大事さに気づいた社長、顔色を変えて工場にやって来た。
「乾君、何があったんや、詳しく話を聞かせてくれないか」

と、言った社長に発した言葉である。

それが きっかけで社長との距離がグッと近くになった。
“同志”  その単語がピッタリの時間を過ごしていく事となった。

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