T社長の話 ③

社長と私の距離を近づけたYさん、いやぁ〜、なかなかのパワハラぶりであった。

今なら、すぐにSNSで投稿、訴えられるだろう。

「あんたら、私に逆らったらどうなるか分かっているやろな」

家に火をつけてやる、社長に言ってすぐにクビにしてやる、もう脅しの羅列、出てくる、出てくる。

実際、皆の前で土下座をさせられ、延々 「許して下さい、パート続けさせて下さい」と泣きながら許しを請い続けた方がいたらしい。

一度 嫌うと徹底して苛め抜く。

嫌味・陰口・無視。

「あんたみたいなん、社長に言って辞め指す事位 簡単や」

何かあると、そう口にしていた。

社長と如何に近しいか、信頼関係があるか誇示したかったのだろう。

Y氏に任せていたせいか、社長が工場に足を運ぶ事は全くなかった。

故に社長のイメージはY氏を通して出来上がっていった。

「とにかくワンマンで仕事に厳しい、いつも怒鳴っている、こちらの言う事を全く聞かない。   学生運動していた位の人だから、とにかく感情が激しい。 すごく怖い人」

ある日、工場にいつもと違う緊張感、皆ピリピリしている。

聞けば、社長が来るとの事。

そら、凍り付くわ。 私もドキドキもんである。

社長、無言でY氏に案内され登場。

白衣に白帽、眼鏡の奥の目 笑っていない。

職人さん、一人一人を見て回っている。

確か、モンブランだったと思う。

1個、手に取り秤に置いた。

「〇g多いやないか!  何勝手な事してんねん! 作り直せ!!」

職人さん、硬直。  誰一人 言葉を発しない。

自分の時はどうだろう、そのビクビク感伝わってくる。

いよいよ、包装しているパートの場所に。

パートの方達も、畏れ多いのか目を合わす事なく、ひたすらケーキをまいている。

「皆、良くやっています、本当に喜んで仕事をしています。」

うん、頷く社長。

フッ、鼻で笑ってしまった。

「何や」

「いえ、聞いていた通りの方だなって思って」

「どう言う事や」

「社長、この子 まだ新人で何も分からないんで」

慌てて とりなすY氏。

「そうか」

そして、二人は事務所もどきの2階へ。

一番古い先輩、

「あんた、アカンやん、もうヒヤヒヤしたわ」

だって、面白かったんですもん。

2階でY氏と打ち合わせした後、社長 皆の顔を覗く事もなく、本社に帰って行った。

その後、私が社長と顔を毎日のように合わす事になるとは、この時点では全くもって予想していなかった。

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